図3-3-21のhFE周波数特性は,Cibのみの影響を反映して(Cob等コレクタ側の影響を排除して)求めています.そのため実際のトランジスタのhFE周波数特性とは異なりますが,一般的に一次遅れ要素である傾向は同様で,利得帯域幅積が低周波寄りになります. たとえばコレクタが直流電源に直接接続される測定回路の場合,Cobが交流的に接地されることになるので,式3-3-8から求められる利得帯域幅積(hFE周波数特性)は,CibにCobの値を加えることによって少し低周波寄りになります.
さらに,Cib,Cobの様な拡散容量,接合容量や機構上形成される容量のほかにベース極内に残留する電荷(容量)が存在します.この容量は極板構造のような一対の形状を持ちません.この容量に充電される電荷は,ベース極に存在するキャリア総電荷量です.ベース,コレクタ,エミッタからのすべての流入電流総和が積算された電荷量ということになります.
そのため,ベース電流のみによって直接残留電荷のコントロールができません.その反面,この容量に存在する残留電荷は,時間とともにエミッタあるいはコレクタに流出し電気的に中性となります.そのため極短時間ではありますが,この残留電荷によってキャリアの余剰や不足が発生することになります.
この残留電荷はとらえどころの難しい要素ですが,ある短時間(高周波域)においては容量性の性質も持ち,さらにある一定時間後には残留電荷がリセットされる時間遅延の要素とを複雑に併せ持つ存在とイメージします.
このキャリア電荷をもうちょっとすっきり書くと,ダイオードにおける逆回復時間の原因となる残留キャリア電荷に似た存在といったらわかりやすいかもしれません.
よって実際のhFE周波数特性の算出には,Cib,Cobのほかにベース極の残留電荷容量を加味する必要があります.一般にメーカの提供するデータシートでは残留電荷容量を記載することはほとんどありません.しかし,反対に記載されることの多い,hFEおよび利得帯域幅積,iB-vBE特性→Rbe,などから(メーカの定める測定回路における)ベース極の対GND容量が式3-3-8を用いれば算出も可能です.
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